102日目: July/11/2016 (PDT)

大学で資料読み、原稿書き。

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本日目についたNY Timesの記事。Surprising New Evidence Shows Bias in Police Use of Force but Not in Shootings(「警察官による有形力の行使にはバイアスが認められるが、銃撃にはバイアスが認められないとする、驚くべき新事実」)。この記事は、経済学者による最新の論文(2016年7月)を参照しつつ、アフリカ系に対する警察官の振る舞いの現状を明らかにする。短く要約するならば、「警察官が被疑者を銃撃するか否かについては被疑者の人種の影響はないが、相対的に深刻ではない(銃撃ほどではない)有形力の行使については人種の影響がある」。

 

この記事が依拠する論文は以下(対ヒスパニックについても扱っている)。著者であるRoland G. Fryer Jr.はハーバード大学教授。

An Empirical Analysis of Racial Differences in Police Use of Force

 

しばしばアフリカ系は職務質問の対象とされやすいと指摘されてきた。この研究によれば、そのような傾向は、警察官による有形力の行使(接触; touch, 手錠の使用; handcuff, 地面に押し付ける; push to the ground, 催涙スプレー; pepper-spray)にも認められるが、銃撃(shooting)には人種的バイアス(racial bias)は認められないという。当該研究は、ニューヨーク市のデータ(NYC’s Stop and Frisk program and the Police-Public Contact Survey; PPCS)および全米10カ所の警察署のデータに基づく(10頁)。この記事がまとめたところによれば、2003~2013年のニューヨーク市における有形力行使は以下。

 

  対 アフリカ系

対 白人

(同様の状況にある)

 
手の使用

2,165

ニューヨーク市で停止させられた1万人あたり

1,845

ニューヨーク市で停止させられた1万人あたり

17%

対アフリカ系が多い

壁に押し付ける 623 529 18%
手錠の使用* 310 266 16%

武器の取り出し

draw weapons

155 129 19%

地面に押し付ける

136 114 18%
武器で狙う 54 43 24%
催涙ガスもしくは警棒の使用 5 4 25%

 

銃撃についてはどうか。Fryerは、まずヒューストンのデータを用いる。そこでは、被疑者がアフリカ系である場合に、ヒューストンの警察官が銃撃する割合は、20パーセント少なかった。ここから、Fryerは、より多くのデータが必要としつつ、アフリカ系が白人より銃撃されていない(あるいは、少なくとも銃撃されやすいとはいえない)とする。さらに、全米経済研究所(National Bureau of Economic Research)による研究に基づき、同様の傾向が見られるとする。

 

Fryerは、(人種的な影響はないとする)致死的有形力行使(lethal force)と(人種的な影響があるとする)非致死的有形力行使(non lethal force)との間には、警察官が直面するコスト(法的、心理的)の違いがあるのではないかと推測している。

 

自らもアフリカ系であるFryerは、Michael Brown事件*1やFreddie Gray*2事件に対する怒りからこの研究を始めたという。記事の中で、Fryerは、「抗議は私のすべきことではないが、データは私のすべきことである(...protesting is not my thing....But data is my thing.)」と語っており、研究者と社会運動、あるいは、研究者としての社会への貢献の仕方、という角度からも考えさせられる。

 

昨日撮影した、マイクロ・ブルワリーの看板。いつも洒落ている。店内でユーロ2016を放送していたのだろう。「チップをユーロで払うのも歓迎」。

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*1:2014年8月、ミズーリ州ファーガソンで18歳のアフリカ系男性が白人警察官により射殺された事件。同年11月大陪審は警察官を不起訴とし、これをきかっけに暴動や各地での抗議行動が生じた。

*2:2015年4月、メリーランド州ボルティモアで25歳のアフリカ系男性が逮捕後死亡した事件。